要点
- タイでは、外国人・外国法人が資本の50%以上を持つ会社は「外国人」として扱われ、外国人事業法の規制を受けます。サービス業の多くは規制の対象(第3表)で、外資が過半なら事業許可(FBL)が必要です。
- 外資過半で事業をするには、FBL を取るか、BOI(投資奨励)・IEAT(工業団地公社)・条約にもとづく証明書(FBC)を使います。どちらも使えない業種では、外資49%以下での出資が検討されます。
- 名義貸し(名義株)は、タイ側・外国側の双方が刑事罰の対象です。2026年は、会社登記で銀行の取引明細や出資の誓約が求められるなど、審査が強まっています。
- 株式の譲渡は、書面・双方の署名・証人1名以上が必要で、株主名簿への記載で会社と第三者に対抗できます。印紙税は0.1%です。
- 買収前の調査では、外資規制への適合、名義株、許認可と支配権変更条項、税務調査の遡及、土地の保有を重点的に確認します。
タイのM&Aと、日本企業の位置
タイは、日本企業にとって東南アジアでもっとも事業の基盤が厚い国のひとつです。JETRO の調査では、タイに拠点を置く日系企業は6,083社(2024年度調査)にのぼります。
- タイ投資委員会(BOI)によると、2025年の外国からの投資奨励申請で、日本は国別の4位(311件・1,191億バーツ)でした。
- レコフの集計では、日本企業による ASEAN 向けの M&A で、タイは2025年に3番目に件数の多い国でした。
- KPMG の集計(取得比率30%以上、または1億ドル以上の案件)では、タイの M&A は2026年第1四半期に57件、第2四半期に40件ありました。
一方で、タイの会社を買うときには、日本にはない外資規制と、それに関わる登記の審査があります。以下では、買う側・売る側の双方が最初に押さえておきたい点を、順に整理します。
外国人事業法:外資50%が分かれ目
タイの外資規制の中心は、外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542、1999年)です。
「外国人」の定義
外国人・外国法人が資本の2分の1以上を持つタイ法人は、法律上の「外国人」として扱われます。判定は直接の保有比率で行うため、タイ資本が過半の会社の子会社は、タイ法人として扱われます。
規制される業種(3つの表)
| 区分 | 業種の数 | 扱い | 例 |
|---|---|---|---|
| 第1表 | 9業種 | 外国人は参入できない | 新聞・放送、農業、土地取引など |
| 第2表 | 13業種 | 内閣の承認が必要 | 国の安全・文化・天然資源に関わる業種 |
| 第3表 | 21業種 | 商務省事業開発局長の許可(FBL)が必要 | 会計、法律、建築、エンジニアリング、建設、仲介・代理、小売(資本金1億バーツ未満)、卸売(1店舗あたり1億バーツ未満)、広告、ホテル(ホテル経営サービスを除く)、観光ガイド、飲食物の販売、その他のサービス業 |
第3表の最後に「その他のサービス業」があるため、サービス業は原則として規制の対象になります。逆に、3つの表のどれにも当たらない事業(多くの製造業など)は、外資100%で営めます。
注意が必要なのは、製造業に見える事業です。商務省事業開発局は、受託生産・金型・メッキ・表面処理・熱処理などの請負をサービス業として扱っています。BOI や IEAT を使っていない外資過半の会社がこれらを請け負うには事業許可が必要で、2024年には日系企業が経済警察から召喚される事例も報じられました。
事業許可(FBL)と事業証明書(FBC)
| 外国人事業許可(FBL) | 外国人事業証明書(FBC) | |
|---|---|---|
| 性格 | 申請して許可を受ける | BOI 奨励・IEAT 認可・条約などを根拠に、届け出て受ける |
| 審査の期間(法律上) | 第3表は60日以内に判断、許可から15日以内に許可証 | 30日以内に発行 |
| 注意 | 借入は資本金の7倍以内(JETRO) | BOI によるものは奨励を受けている間だけ有効 |
最低資本金
外国人がタイで事業をするときの最低資本金は200万バーツ以上、規制業種では1業種ごとに300万バーツ以上です(第14条)。
2026年の動き
- 適用除外の拡大:第3表の「その他のサービス業」から外す業務を定めた省令(第5号、2026年8月28日官報掲載)が出ました。グループ会社間の管理・人事・IT 業務などが対象です。要件と施行日は、案件ごとに専門家に確認してください。
- 「実質支配」の基準:50%の資本比率に加えて、実質的な支配で外国人かを判定する案について、2026年4月に公聴会が開かれました。2026年10月時点で成立していません。
買収スキームの選び方
株式を買うか、事業を買うか
| 株式の取得(株式買収) | 事業・資産の取得(事業譲渡) | |
|---|---|---|
| 引き継ぐもの | 会社をまるごと(契約・許認可・従業員・過去の債務も) | 選んだ資産・契約・従業員 |
| 手続き | 株式の譲渡と株主名簿の書き換え | 資産・契約ごとに移転。煩雑になりやすい |
| 従業員 | 雇用は会社に残る | 移る従業員それぞれの同意が必要になる場合がある |
| 外国の買い手 | 外資比率が変わり、外国人事業法の確認が必要 | 受け皿の会社を設立して買うのが一般的 |
なお、タイの非公開会社が新株を発行できるのは既存の株主に対してだけです。増資で入る場合も、まず1株以上を取得する必要があります。
外資比率の3つの型
- 外資49%以下:外国人事業法上の「外国人」に当たらない。ただし、タイ側の株主が実際に出資し、意思決定に関わっていることが前提です。
- 外資過半+事業許可(FBL):規制業種でも、許可を受ければ外資過半で営めます。許可の判断と期間を計画に入れます。
- 外資過半+BOI・IEAT などの証明書(FBC):奨励対象の事業なら、外資過半(業種によっては100%)が認められます。
外資49%・タイ側51%として、タイ側の優先株の議決権を絞る手法は以前から使われてきました。ただし、手法によっては名義貸しにあたるおそれがあると、タイの弁護士からも指摘されています。明確な判断基準はないため、採用する前に必ず専門家の意見を取ります。
名義貸しへの取締り(2026年)
名義貸しは、名義を貸したタイ側と借りた外国側の双方が、3年以下の禁錮か10万〜100万バーツの罰金、またはその両方の対象です(外国人事業法第36条)。2026年は、取締りが目に見えて強まりました。
- 2026年1月:外資50%未満の会社や、外国人の取締役がいる会社の登記に、銀行の取引明細の提出が求められるようになりました。
- 2026年4月1日:株主全員が正当に出資し、名義貸しがないことを書面で誓約する通達が施行されました。
- 2026年8月1日:中央登記局命令 2/2569 が施行され、外資50%未満の会社などの設立では、出資の説明書と、タイ人株主の払込前3か月分の銀行明細が必要になりました。変更登記には投資の確認書が求められます。
- 2026年8月25日:土地局が、名義貸しによる土地の保有の審査を強める通達を出しました。
買う側にとっては、対象会社の株主構成が実態どおりかが、価格以上に大事な確認事項になっています。売る側にとっては、売却の前に株主構成を整理しておくことが、買い手を見つける近道になります。
手続きの流れ
- 方針の整理:目的、予算、外資比率の型、許認可の要否を決める。
- 候補の探索と初期検討:秘密保持契約のうえで、事業の概要と財務を確認する。
- 基本合意:価格の考え方、スケジュール、独占交渉の期間を決める。
- 買収前の調査(デューデリジェンス):法務・財務・税務・許認可。目安は1〜2か月とする法律事務所の資料があります。
- 最終契約:表明保証、補償、支配権変更の手当て、従業員の扱いを定める。
- 株式の譲渡:記名株式の譲渡は、書面に譲渡人・譲受人が署名し、証人1名以上が認証しないと無効です(民商法第1129条)。会社と第三者に対抗するには、株主名簿への記載が必要です。
- 登記:取締役の変更は14日以内に登記します(第1157条)。株主名簿(BOJ.5)は、年1回、定時総会から14日以内に提出します(第1139条)。
- 買収後の統合(PMI):経営体制、会計、人事、許認可の名義を整える。
商務省事業開発局(DBD)の登記は、2026年11月1日からすべてオンライン(DBD Biz Regist)での受付になります。外国人の取締役がいると、即日では完了しない場合があります。
株式譲渡の税金
印紙税
株式の譲渡証書に、払込済の金額と証書に書いた金額のうち高い方の0.1%(1,000バーツごとに1バーツ)がかかります。納付義務は譲渡する側です。
売り手の譲渡益
| 売り手 | タイでの課税 |
|---|---|
| タイ法人 | 譲渡益は通常の所得として法人税(20%。中小法人は軽減税率あり) |
| タイで事業をしていない外国法人(日本の会社など) | 買い手が譲渡益の15%を源泉徴収する(歳入法典第70条) |
| 非居住者の個人 | 15%の源泉徴収(第50条) |
| 居住者の個人 | 他の所得と合わせて0〜35%の累進課税(タイ証券取引所の市場で売った上場株は非課税) |
日本とタイの租税条約(第13条4項)では、タイ法人の株式の譲渡益について、タイ側にも課税する権利があります。日本の売り手は、タイでの源泉徴収と日本での外国税額控除を合わせて手取りを試算します。価格交渉の前に、会計士と確認してください。
過去の税務
タイの税務調査は、通常は申告から2年以内ですが、脱税の疑いがあれば過去5期分まで遡れます。株式買収では過去の税務リスクも引き継ぐため、調査の重点になります。
事業(資産)を買う場合
資産の譲渡には、VAT(2027年9月30日まで7%)、不動産の売却では特定事業税(地方税込み3.3%)などがかかります。株式会社どうしで事業の全部を譲り、譲渡側が同じ会計期間内に解散するなどの条件を満たす「事業全部譲渡」では、VAT・特定事業税・印紙税が免除されます。要件は専門家に確認してください。
従業員の扱い
- 株式買収:雇用主(会社)は変わらないため、雇用はそのまま続き、従業員の同意は要りません。
- 事業譲渡:雇用主が変わるため、従業員本人の同意が必要です(労働保護法第13条)。従業員の権利は新しい雇用主に引き継がれます。同意しない従業員については、元の雇用主が解雇として扱い、解雇補償金を払う必要があるとした判例があります。
- 解雇補償金:勤続年数に応じて決まり、勤続20年以上で最大400日分です(第118条、2019年改正)。人員の見直しを予定する場合は、買収価格の検討に入れます。
競争法の届出
タイの取引競争法(2017年)では、企業結合に2つの手続きがあります(第51条)。
- 事後の届出:競争を著しく減らすおそれのある結合は、結合した日から7日以内に届け出ます。基準は、当事者のどちらか、または合算の関連市場での売上高が10億バーツ以上の場合です。
- 事前の許可:独占や市場支配的地位を生むおそれのある結合は、事前に許可を受けます。
非上場会社では、株式の50%超を取得すると「結合」に当たります。基準を引き下げる改正案(売上高5億バーツなど)について、2026年9〜10月に意見募集が行われています。売上規模の大きい会社を買うときは、基準に当たるかを確認します。
買収前の調査で見るべき、タイ特有の点
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 外資規制への適合 | 事業が第1〜3表のどれに当たるか、許可・証明書があるか。受託生産などのサービス該当性も見る |
| 株主構成と名義株 | タイ側株主の出資の実態。2026年は登記でも審査が強まっている |
| 株式の担保 | 第三者の担保は、対象会社が持つ株主名簿でしか確認できない |
| 許認可と支配権変更条項 | 株主が変わると、許可や重要な契約が見直されることがある |
| 税務 | 税務調査の遡及、移転価格(年間売上2億バーツ超の会社は開示様式の提出対象) |
| 土地 | 外国人は原則として土地を所有できない(BOI・IEAT は例外)。土地を持つ会社の外資は49%が上限。用途地域(ゾーニング)も確認する |
ACS の支援
Asia Capital Strategies は、大阪の本社とバンコクのタイ法人 SIAM ACS CO., LTD. から、タイでの会社の買収・売却を、方針の整理から候補の探索、交渉、調査の手配、契約、買収後の運営まで支援しています。法務・税務の確認は、タイの弁護士・会計士と連携して進めます。
サービスの内容を見る、またはご相談・お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
よくある質問
外国人がタイの会社を100%買収できますか?
業種によります。外国人事業法の規制業種(第1〜3表)に当たらない事業なら、外資100%で保有できます。規制業種でも、事業許可(FBL)を取るか、BOI 奨励などにもとづく証明書(FBC)があれば、外資過半で営めます。サービス業の多くは第3表に当たるため、買収前に対象会社の事業がどの表に当たるかを確認します。
日本企業がタイの会社に49%だけ出資するのはなぜですか?
外資が50%未満なら、外国人事業法上の「外国人」に当たらず、規制業種の事業許可が要らないためです。ただし、実際の支配や資金がタイ側にない場合は名義貸しとみなされるおそれがあり、2026年は登記の審査も強まっています。出資比率だけで判断せず、専門家と株主構成を設計します。
株式譲渡にはどんな税金がかかりますか?
株式の譲渡証書に印紙税(0.1%、譲渡する側が納付)がかかります。売り手の譲渡益は、タイ法人なら法人税、タイで事業をしていない日本の会社なら買い手が譲渡益の15%を源泉徴収します。日タイ租税条約でもタイ側に課税権があるため、日本での外国税額控除と合わせて、会計士と手取りを試算してください。
買収にはどれくらいの期間がかかりますか?
案件の規模、許認可、外資規制への対応で大きく変わります。目安として、買収前の調査(デューデリジェンス)に1〜2か月かかるとする法律事務所の資料があります。事業許可(FBL)が必要な場合は、法律上の審査期間(第3表は60日以内、許可後15日以内に許可証)も見込みます。
名義株のある会社を買ってしまうとどうなりますか?
名義貸しは、名義を貸したタイ側と、名義を借りた外国側の双方が、3年以下の禁錮か10万〜100万バーツの罰金(または両方)の対象です。買収後に問題が表に出ると、事業の継続そのものに関わります。株主の出資の実態を、契約前の調査で確認します。
主な出典
- 外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542)英訳 ↗
- JETRO「タイ 外資に関する規制」(2025年10月30日更新) ↗
- JETRO「タイ 会社設立の手続き」(2025年10月30日更新) ↗
- JETRO ビジネス短信(2024年9月)受託生産と外国人事業法 ↗
- JETRO ビジネス短信(2026年4月6日)名義貸しの取締り強化 ↗
- Tilleke & Gibbins(2026年9月1日)外国人事業法の適用除外の拡大 ↗
- Rödl & Partner(2026年5月12日)名義貸し対策の新措置 ↗
- Grant Thornton Thailand(2026年8月19日)中央登記局命令 2/2569 ↗
- Baker McKenzie(2026年10月1日)DBD の登記の全面オンライン化 ↗
- タイ歳入局 印紙税 ↗
- タイ歳入局 外国法人の課税(歳入法典第70条) ↗
- 日タイ租税条約(英文、タイ歳入局) ↗
- PwC Worldwide Tax Summaries タイ(法人所得税) ↗
- KPMG(2026年9月3日)タイ VAT 7% の2027年9月までの延長 ↗
- Tilleke & Gibbins(2020年10月)タイ労働法における雇用の移転 ↗
- Tilleke & Gibbins(2019年)労働保護法の主な改正 ↗
- 取引競争法 2017(非公式英訳) ↗
- Legal 500「Thailand: Merger Control」 ↗
- Tilleke & Gibbins(2026年9月25日)企業結合・市場支配の基準の改正案 ↗
- PwC Worldwide Tax Summaries タイ(税務調査) ↗
- Legal 500 / Weerawong, C&P「Thailand: Mergers & Acquisitions」 ↗
- KPMG Thailand「M&A Trends in Thailand Q2 2026」 ↗
- タイ投資委員会(BOI)2025年の投資奨励申請(PR15/2569) ↗
- レコフ クロスボーダーM&A 市場情報 ↗
- JETRO 地域・分析レポート(2026年)タイの日系企業 ↗
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